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記憶に残る2%になるために:脳科学の視点

  • Shiho
  • 2021年6月16日
  • 読了時間: 4分

更新日:2021年10月31日




コロナは、消費者行動を変えた。旅行も然りである。

経済回復が見られる中国では、2021年5月連休期間中の旅行が約2億3000万件と、前年比+45%となった。旅行目的や形態が変化しており、2019年同期比で約20%(高級ホテルでは約30%)ホテルでの滞在日数が増加した。安心・安全が重要な旅行へのニーズであり、ホテル自体が旅行の主目的、つまり「ホテルの更なるエンタテイナメント化」を意味している。


ロンドンの5つ星ホテルThe Nedは、エンタテイナメント性を、細部まで拘り綿密に練り上げたブランドだ。


1924年にイギリスの建築家、エドウィン・ラッチェンス(通称ネッド)がミッドランド銀行本社として設計した建物を改装したホテルで、2017年にロンドンの金融街シティにオープンした。ガレス社長曰く、その差別化の主要因は、3,000 平方メートルにも及ぶ1階スペースである。元銀行窓口ホールには、10軒のレストランが軒を連ね、非宿泊客以外にも解放されている。


人間は、1日約34GBに当たる情報に晒され、約7,000個の考えを巡らせる。そして、1ヶ月後に覚えているのは、たったの2%とも言われている。


脳科学の視点から見ると、「認知され、記憶される顧客体験」を創る興味深いヒントがあるようだ。


1) 「物語」は記憶力を高める


物語は、単純な統計や事実よりも22倍記憶されやすいという。確かに、2時間にも及ぶ映画の登場人物の背景、個性や信念、物語の展開と結末を覚えているものだ。人は、抽象的な物が「構造化して筋を通す」と記憶に留めやすく、更には感情を揺さぶられやすい。


物語は、単純な統計や事実よりも22倍記憶されやすい

The Nedには、その佇まいや歴史に十分な物語がある。欧州随一の金融街の中心地という立地、1920年代の国の第一級指定建物、そしてアイコニックな建築物をこの世に送り出した建築家のニックネームがブランド名「The Ned」の由来である。時間を超越した、壮大な時間軸とロマンを感じさせる。またThe Nedプロジェクトを仕掛けたのは、Soho Houseを手がけた起業家ニック・ジョーンズと、役者が尽きない。


2) 多感覚と情報が一緒になり意味をもつ

情報が五感のインプットと共に処理されるとき、意味と関連づけられる。このプロセスは「セマンティクエンコーディング」と呼ばれ、これによって私たちは物事をより覚え、より長く保持することができる。この作業は「一貫性」があるとし易く、顧客体験の設計に重要な視点となる。

五感と情報が結びつくと記憶しやすい

The Nedに入ると誰もがまず気がつくのは、ニッケル・バーのステージ。通路の真ん中に一段高く設置された円形の舞台には、さりげなくスポットライトが当たり、一流のミュージシャンが目と耳とで、今から始まる空間と時間のトーンを決める。これから始まる体験への期待値を盛り上げる仕掛けだ。更には、幅広いジャンルの個性ある10のレストランが、目、鼻、舌を楽しませる。


映画のセットに入り演技するように、お客様はスタッフや他のお客様と一緒に時間を共創する。つまりお客様にとっては、The Nedブランドは、自身を充足させるプラットフォームとしての存在価値を持つ。自身が作ったり関与したりものに対して、その価値を過大評価する「IKEA効果」が働き、お客様により大きな満足感をもたらす。


一方、The Nedのビジュアルアイデンティティーは、建物を取り囲む錬鉄で形取られた大きな窓の形、色は一階フロアに92本ある青緑の柱色を連想させる。実体験の延長線上にあるビジュアルアイデンティティーに、顧客の体験価値が蓄積されていく。


3) ピークエンドルール

人は完璧に出来事を覚えていない。完全な出来事カタログを持ちあわすのではなく、一連のスナップショットで記憶する。私たちの記憶には、偏りがあるのだ。


まず強烈な感情を覚えている、良かった事、悪かった事双方をである。もう一点興味深いのは、出来事の「最後」を覚え易いことだ。「終わりよければすべて良し」である。


出来事の「最後」を記憶しやすい

多くの人がホテルを去る前にすること、それはトイレに立ち寄ることではないだろうか?

The Nedで地下一階のトイレに行く際、会員制バーの入り口が目に入る。銀行時代の貸金庫のドアで、重さが20トン、厚みが2メートルある。かつては約3億ポンドが保管されていた。改装は一筋縄ではいかなかったようだが、ブランド体験を最高の終わり方で封印する、アイコニックな空間に蘇らせたのだ。The Nedの100年前の姿を、最後に念押しされるかのような、とても印象的な場所である。



科学的な視点から顧客体験の設計を見てみると、これまで直感的に結果を生み出してきた事が、実は論理的にも説明できることに気がつくかもしれない。


また上記ではハード面を中心に見てきたが、ホスピタリティーブランドにおいて、同じ観点のソフト面が、心に残る経験を作る重要な役割を果たすことは言うまでもない。スタッフが作る「思いがけない」体験はピークモーメントの好例である。

カスタマージャーニーを最初から最後まで俯瞰し、現在のサービスの改善策のみならず、0から1を生み出す視点(物語、意味、ピークエンドルール)を持てば、お客様にいつまでも消えることのない思い出を演出できる。それがホテルでの滞在時間の増加に繋がり、売上向上の基盤となっていく。




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