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  • Shiho

新ブランドに聞きたい6つの質問:星野リゾートの事例




星野リゾートは、日本発ホテル業界の風雲児ブランドである。


長野県で100年以上続く温泉旅館の四代目として生まれた星野佳路氏は、日本で慣例であった、ハードとソフトをセットで所有・運営するビジネスモデルから脱却し、ホテルマネジメントに特化したビジョナリーな経営者である。家業として宿泊業を営む形態が多い中、新風を巻き起こしている。


その星野リゾートのラグジュアリーブランドが、「星のや」である。中でも星のや東京は、星野氏の目指す「都市型旅館サービス」を具現化したフラッグシップホテルで、5年以内の北米進出も含め、グローバル展開を視野に入れている。


星のや東京は、皇居近くに2016年に開業、近隣にはフォーシーズンズやマンダリンオリエンタルなど、世界のラグジュアリーホテルブランドが軒を連ねている。最も競争が高い地を選んだのも、自信や決意の表れなのかもしれない。



純和風旅館と旅館風ホテル


日本には約4万件の旅館があり、1,200年以上の歴史がある。ホテルとは様々な面で異なり、日本の文化を凝縮した体験コンテンツとも言える。衣食住の視点で切り取ると、旅館では浴衣に袖を通し、朝食と夕食の2食が基本、そして大浴場があり食事、寛ぎ、そして睡眠の空間と変わる畳部屋が用意される。

日本の旅館

旅館は、ユニークな日本文化を体験したい海外からの旅行者には魅力的である一方、長期滞在の場所としては、彼らの快適さを逸脱する部分もある。例えば、旅館で用意される夕食は、懐石料理と呼ばれるものが主で、通常8品ほどからなり、連日高級料理が続けば、ハンバーガーを食したいと思うのが人間の本能であろう。


星のやブランドの素晴らしさは、そのターゲットとコンセプトが明確であるゆえに、旅館文化を独自の物差しで解釈し、それをサービスや施設を通じて表現・提供できていることである。日本人旅行者と非日本人旅行者の宿泊レビューが分かれているのは、セグメンテーションとブランドアクティベーションが戦略通り実行されている表れであろう。



新ブランド創出前に答えたい「6つの問い」


新ホスピタリティーブランドの創造とは、心地よさと驚き、拘りと適応、データの示唆と経験と直感、全てにおいてバランスが肝だ。それを始めるにあたり、下記の問いから始めることをお薦めしたい。


顧客の視点:

  1. 顧客は時代・社会・文化の潮流を、今と未来とでどう捉え、それに対しどのような考え、願望、夢を持っているか?

  2. 顧客はどうブランドを捉え、どのような期待をしているか?

  3. 顧客をワクワクさせられるハード(例:部屋や設備)とソフト(例:サービスやプログラム)は何で、どうしてそれを実現できるか?


ブランドの視点:

  1. 新ブランドコンセプトが、既存ブランドエクイティーの向上に貢献するか?

  2. 現在のポートフォリオの中で、カニバリズムなく、ユニークなポジションが確立できるか?

  3. 新しいブランドコンセプトのリスクは何で、それが機会を上回らないか?



星のや東京の例を使い、この問いに沿いながら、ブランド創生プロセスを、一歩深く体験してみましょう。



顧客の視点


星のや東京の進出計画が始まったであろう2013年前後は、訪日観光客数が年率約25%で成長していた。グローバル化で体験の画一化が進む世界に反比例するように、旅行者たちは、益々国独自の文化に触れたいという願望を増していっていた頃だ。一方現実的には、東京でそれを探すのは容易ではなく、一方田言葉も通じないような田舎で気を揉むのもスタイルとはそぐわない。特に価値あるものには金に糸目とつけない富裕層は、その傾向が顕著であったであろう。


これまでの日本発ホテルブランドが成し得なかった、世界に通用する日本発のラグジュアリーブランドを創り出すには、十分な潮流があった。当然のことながら星のや東京の主ターゲットは、非日本人観光客、今後のグローバル展開を考えれば、新コンセプトのパイロットホテルと考えても不思議ではない。と同時に、星のや東京の「都市型旅館サービス」という提供価値は、「純和風旅館ではなく、テーマパーク的に旅館コンセプトを味わう」と定まったのであろう。


星のや東京が、どう旅館体験価値を守り、かつ進化させていったか?旅館文化のユニークさを残したものは、ホテル内で靴を脱いで過ごす空間、地下1500メートルの掘削で湧いた温泉。顧客の居心地の良さを追求し進化させたのは、レストランでの夕食、お茶の間ラウンジに常駐するスタッフ兼コンシェルジュ。さらに驚きという要素で、雅楽、茶道、香道のプログラムを用意した。


靴を脱ぎ、裸足になって畳を歩く。既視感がありながら異空間であることに、にわかに気持ちが高ぶる。

星のや東京に一度入ったら外には出たくなくなる、なぜなら、ここに東京では見つけにくい伝統的日本が凝縮されているから。旅のディスティネーションとなる、特別な空間と体験を作り出すことに成功したのである。



ブランドの視点


星野リゾートは、リゾナーレ八ヶ岳のリゾート事業再生からホテルマネジメント事業を本格化させた。つまり当初からラグジュアリーホテルブランドポートフォリオに、専念してきた訳ではない。マリオットグループのエディションホテルのように、星のやブランドは、ホテルマネジメントのプロとして、幅広いホテルブランドポートフォリオを経営するケーパビリティーを、投資家に証明する事業であったに違いない。


一方で、「星のや」ブランドの想起と再認向上によって近年浮上したのが、ブランドアーキテクチャーの問題である。星野リゾートは、温泉旅館「界」、都市型観光ホテル「OMO」などのサブブランドを有し、これらは星野リゾートのマスターブランド戦略をとっている。よって、ブランド認知と期待のミスマッチが起こらぬよう、全体を包括する「アンブレラ・ブランドとしての星野リゾート」のブランド強化が目下の課題のようだ。ここでも長期的なブランドエクイティを梃子とした収益向上と、短期の認知度を梃子とした売上成長というバランスが問われる。



新しいブランドを生み出す際、顧客起点であることは必須だ。なぜなら、ブランドは彼らの心で住み成長するからだ。まず顧客に、世界において何をどのように見ているかを聞き、ブランドに何をどのようにサポートしてもらいたいか、そしてなぜそう思うのかも聞こう。特にパンデミックを通じて、顧客の価値観や行動が変わりつつあり、これは大切なポイントである。この過程を経た後、ブランドの理論的根拠と擦り合わせ、新しいブランドの方向性を見いだすことができる。




Reference:





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