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  • Shiho

日本向けブランドローカリゼーション:コスタコーヒー



Costa Coffee(コスタコーヒー:以下コスタ )の日本進出を知り驚いた。


ロンドンの至る所で見かけるえんじ色のロゴだが、普通のコーヒーショップと見過ごしていた。そのブランドエクイティーを、見逃していたに違いない。


コスタは1971年セルジオとブルーノのコスタ兄弟によって設立、英国1.5兆円規模のコーヒーショップ市場の1/3を占める最大手ブランドである。グローバル展開にも積極的で、32カ国に4,000店舗を出店。2018年には、Coca Colaに約5,900億円で買収された。年率6%で伸長する60兆円規模のグローバルコーヒー市場への参入を念頭に入れた動きだ。


日本でのコスタ店舗は銀座Loft(期間限定)のみで、他対面販売は、数カ所のキッチンカーに限られている。一方、コスタエクスプレスと呼ばれる、セルフ方式の無人コーヒー販売機を約180箇所で展開、ペットボトル入りコーヒーは、4月下旬より販売を開始した。


治安の良い日本では自動販売機が230万台(2020年)と至る所にあり、その最大シェア約40%を占めるのがコカ・コーラ ボトラーズジャパン(株)(以下コカ・コーラ)である。コカ・コーラの約20%を占めるのがコーヒー飲料であり、今回は、RTD(Ready to drink; 通常蓋を開け、直ぐに飲める飲料)を消費せず、かつ手入れコーヒーを好む6,400万人をターゲットとし、プレミアムコーヒーの位置付けを狙っている。価格帯もこのポジショニングに沿ったものだ。



コロナ禍で益々需要の高まりが予想される市場である一方、コーヒー飲料生産自体の参入障壁は低く、ブランド戦略やサプライチェーンなどが、差別化を生む。


買収にあたりコカ・コーラは、コスタのブランドのみならず、コーヒー豆やその効率的なサプライチェーンを含む知的・有形資産も取得している。つまりコスタのブランド価値を活用しながら、コーヒーチェーンのノウハウ、規模の経済、インフラを最大限引き出すことに注力している。コーヒーが様々な様式(店舗、飲料、カプセル、コーヒー豆の販売等)で消費者の生活に入り込めることに注目し、自社が得意である自動販売機販売とRTD飲料強化のために、コスタと手を組んだと読める。


コスタ店舗は、ブランドの体験を広げる販売促進の一環であり、私が当初想像したような主要製品・流通チャネルでなかったのだ。





ブランドストーリーで差別化


コスタが活用したブランド資産の一つは、ストーリーである。


日本市場でのコスタのキャッチコピーは、「ヨーロッパ発祥」「本格派」「45年以上に渡るコーヒーへの情熱と品質へのこだわり」「世界中で多くのお客さまに愛されている」。コスタには歴史、つまり偽りのないストーリーがある。


ストーリーは、ブランド認知向上に大きく貢献する。個性や考えのある主人公がいて、何かの目的を持って進んでいく事が多く、子供のみならず大人までも惹きつける仕掛けがあり、より記憶に残りやすい。伝えたいことを単語で発信するのではなく、構造化・接続化して聞き手がより深く理解できるようにする。


例えばテレビCMでは、このストーリーに紐づくブランドの世界観を保ち、ロゴもブランド名も、英国で使用されているものをそのまま日本市場に適用した。


余談であるが、一般的なブランド連想は、英国=コーヒーではなく、英国=紅茶である。しかし、英国が含まれる欧州(バルやカフェでコーヒーを飲むイタリア、スペイン、フランス等)への好意的な連想が打ち勝ち、興味を掻き立てるブランドのポジショニングを確立、認知度向上に寄与しているのかもしれない。



ブランド提供価値は変えず、流通を変える


コスタは、「より多くの美味しいコーヒーを、より多くの人へ、より身近に」というブランドパーパスのもと事業展開している。


英国では、「誰もがお気に入りのコーヒーショップ」というブランドのタグラインを使っているが、この主な理由は、コスタへのアクセスのしやすさからと推測される。英国に2,861店、スターバックスの約3倍の店舗があるからだ。(一方お気に入りの理由が、「プレミアムコーヒー」であろうかのような販売促進を展開する日本のコスタの手法は巧妙だ。)


では、日本市場で消費者と接触頻度の高い販路は何なのか?

それは自動販売機市場・RTD市場であり、コカ・コーラの強みでもある。


日本では流通を変えたので、ターゲット層やニーズも必然的に変わった。RTD市場は、仕事中に一息つく場面に飲む、または気軽に外出先で飲む、というシーンが想定され、顧客にとって重要な価値は、味やバリスタや店の作り出す顧客体験よりも、入手の容易さである。これはまさしく、コスタ とコカ・コーラが得意とすることだ。


コスタが英国と同様にコーヒーチェーンとして、日本市場首位のスターバックスと真っ向から勝負したならば、激戦市場へ自ら飛び込むことを意味しただろう。日本人は、外国人に比べ味覚力が約2割高いというデータが示すように、洗練された味を求める市場であり、コーヒーの品質への投資が求められただろう。また、スターバックスの抹茶フラペチーノのような日本市場用のメニュー開発への投資も必要になろう。


コスタでは同じブランドの提供価値を提供することで、グローバルなレベルでブランド一貫性も保ち、ブランド資産を守っている。これに付随し、マーケティングミックスを最適化するローカリゼーションが、巧みに展開されている。


従来の4P(製品・価格・流通・販売促進)に加え、差別化に益々重要な役割を果たす「顧客体験」も検討する事を特筆しておきたい。



グローバルブランド日本参入時の他事例
  • ユニリーバのダヴは、石鹸で顔と体の双方を洗わない日本人の習慣を踏まえ、他市場参入時に使う固形タイプの洗顔料ではなく、フォームタイプでの参入を選んだ。

  • ドミノピザは、日本ではMサイズ(23cm)が2,000円~3,000円と高級ピザの価格帯だが、他国ではファーストフードの価格帯である。

  • KFCは、クリスマスにKFCのフライドチキンを食べるという、欧米人には信じれらない文化を販売促進を通じて定着させた。

  • チームコミュニケーションツールのSlackは、英語圏独特のウィットに富んだ表現や参考例、引用の使用などを、各国の常識や嗜好に合わせ変えている。



ブランドのローカリゼーションでは、まずブランドに与えられた使命や課題を理解する事が大切だ。そして商習慣や競合環境、ターゲットの嗜好や生活習慣の違い、文化的・社会的・心理的文脈を調査・分析する。そして、どう消費者との距離感を狭めて行けるか、関係性を築いて行けるか、親しみや愛着を持ってもらえるか、を組み立てていく。


最後に何よりも大切なのは、ブランドのパーパス、提供価値、個性、世界観といったブランド戦略のコアを大切な起点として、製品・価格・流通・販売促進・顧客体験を、各地域の変数に併せ調整することである。




Reference:



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