2020年、世界がダイバーシティ&インクルージョンに注目し始めたのは、米国で「Black Lives Matter」運動が、より多くの人々に認知された事が理由の一つです。英国でも、この運動を支援する抗議活動が行われ、多くの企業が明らかな取り組みを開始しました。
例えばBBCは、3年間のテレビ予算のうち1億ポンドを投じて「多様で包括的なコンテンツ」を制作し、多様性を高めようとしています。一方、日本でのBlack Lives Matter報道は、まるで他人事のようで比にはなりませんでした。総人口の98.5%が日本の民族グループに属しており、日本は理論的にも文化的にも、同質的な国家なのです。
日本人にとって、「多様性」がどのような意味を持つかは想像に難くありません。TOPIX100のうち、15社の取締役に未だに女性が就任していないように、多様性は通常女性の労働力を促進を意味します。
ブランドのステークホルダー、例えば消費者、従業員、株主などは、パーパス(存在意義や目的)を持ったブランドに対して、協力的になります。彼らは、ブランドがコミュニティや世界に与える影響にアンテナを立てています。
では、日本のブランドは、ビジネスの成長のために、ダイバーシティ&インクルージョンに対する価値観をどのように受け入れ、戦略的に活用していくべきでしょうか?
日本のブランドにとって「ジェンダーギャップ」、特に日本における女性の不平等について話し、行動するのは適当です。
日本女性の代弁者となったゴディバ
ベルギーのチョコレート会社であるゴディバが、日本の女性のマインドシェアを獲得するために行った、興味深い事例をご紹介します。
日本のバレンタインデーは、欧米諸国とは少し異なる背景と慣習があります。日本のバレンタインデーは、女性が好意を寄せる男性や仕事仲間にチョコレートを贈る日です。後者は「義理チョコ」と呼ばれ、女性にとってはロマンチックな行為でもなければ、楽しい経験でもありません。なぜなら、職場での女性の振る舞いの延長線上にあるような準備が、必要になることが多いからです。
ゴディバは、2018年に挑発的なキャンペーンを行いました。コンセプトは「義理チョコをやめよう」です。顧客にチョコレートの購入を強要するのではなく、その日を楽しみ、豪華なホテルで自分を甘やかすよう旗を振ったのです。これは、義理チョコの習慣や、女性への構造的な障壁に疑問を感じていた多くの女性の心を捉え、彼女たちの代弁者となりうるブランドとして、ゴディバへの「共感」を創出したのです。
義理チョコの購入を思い留まることで、ゴディバの収益は大打撃を受けることを想像したかもしれませんが、実に綿密に練られた行動でした。ゴディバは高級チョコレートブランドであり、通常、本当に大切な人のためのチョコレートギフトに選ばれます。しかし、女性は義理チョコには安価なブランドを選ぶので、直に自社製品やブランド連想を否定しなかったのです。
ゴディバは、消費者が疑問を抱えていることを知り、そして彼らが大切にしている存在意義「自分を甘やかそう」と掛け合わせ、本キャンペーンを打ち出したのでした。
日本では、著名人を起用した広告(インフルエンサー・マーケティング)が多く見られますが、彼らの存在意義とは必ずしもリンクしていません。多様性に対する新たな視点を提案することは、顧客の心にブランド・エクイティを築く新しい方法となるでしょう。
最後に、海外生まれのブランドは、日本と海外との仲介役というポジショニングを取れるため、ダイバーシティを提唱するリスクが低いかもしれません。世界から輸入された新しい見解を紹介するというスタイルを取る事で、障壁が少なくなるかもしれません。一方で、日本ブランドには、同じ民族に属しているからこその強みもあり、ダイバーシティ&インクルージョン戦略をより推進して欲しいと願います。
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